かくして、初回の定例ライブは無事に終わった。心残りだったのは、自分のバンドの反応が思ってたのと違ったくらい。しかし、それも杞憂であるというのは時間が証明してくれるだろう。なんと言ったって、今日のライブは全て録音されている。ここから、自分の出番をトリミングして、曲ごとにトラックを分割した上でディスクやデジタル媒体に収めたものをデモテープとしてライブハウスに送付すれば、きっとどこかしらには引っかかるはずだ。
「外でのライブも、頑張りたいね……」
「そうだね。その為の準備としてはなかなか良かったんじゃないかな」
そう言いながら、用意したデモテープのカセットとCDの余剰分を、購買の文化部コーナーに置いて値札を書く。「第1回定例ライブ・San Han KikanZ」。1000円でこれが聴けるならむしろお釣りが来るのではないか?
***
「うーん……中々いいとは思うんだけど、如何せんこないだ来ていたバンドもこんな感じでね……」
「そうなんですか」
「それがまあ……何と言うか、かなりうちでヤンチャしてくれたもんだからさ、君達を疑うってわけではないんだけど。……分かってくれるかな」
「……分かりました。お時間いただいて申し訳ないです、失礼します」
おかしい。これで3件目だ。自分の他にもこういうことをしているバンドがいるのは分かったが、しかし……これは不自然なほど避けられているような気がする。この感じなら、まずは初ライブをやった吉祥寺のGO-HATTをホームにして間口を広げる方式で活動を拡大していきたいと思う。……ついでにオーナーさんにもそのバンドの事について伺ってみることにした。
「……というわけなんですけど、オーナーさん何か知りませんか?」
「えぇ〜……どうなんでしょう?渡瀬クンの言ってるのって、要はインプロ中心ですっごいのやってるバンドでしょ?」
「えぇ、まぁ。説明しづらいんですけど、僕らと似たようなことしてる同年代のバンドに目星があれば知りたいと思いまして」
「だとしたら、粉塵なんてそうなんじゃないかしら?」
「粉塵……」
「八百追商業の子達ね。既存曲のフレーズを引用してコラージュをしながらセッションしてるっていう、変わった子達よ」
「なるほど、確かに面白いかも……でも、それでハコ側から避けられるなんて事ありますかね?」
「余っ程なさそうね。もし配信も同時にしてたら、原盤権の問題があったりするから、それでいい顔されないみたいな部分はあるんじゃないかしら」
「ふむ……」
「あとはフランスのマスロックに影響を受けた2ピースのコスモデパートとか?」
「あ、それは知ってます。なんかすごい変なダブルネックとルーパーの……」
「そうそう!元ネタがあって、それをもう少し親しみやすく落とし込んだ感じのバンドだと思うとわかりやすいかしら」
「僕あれ好きなんで、次ライブあったら見に行こうと思ってます」
「いいと思うわ。あとはここの常連でもあるんだけど、腹八分目っていう3ピースのニューメタルとか」
「あ〜……もしかしてギターがエクスプローラー使ってません?」
「あら、知ってるの?」
「セッション会の時にいたような気がして……」
「あ〜!その時にいたわね、たしかに」
「やっぱり。……帰りに聴いてみようかな」
「結構いいわよ。……渡瀬クンはちなみにどの辺でそういうことがあったの?」
ひとしきりバンドの話で盛り上がってたが、ここで本題に引き戻った。
「下北沢です。あそこってライブハウス多いから、色んなとこに呼んでもらおうと思って」
「なるほどねえ。宇橋の方だったら心当たりがあったんだけれどね」
「宇橋……そっちの方面にいるんですか」
「いるのよ。月面着陸って子達が」
「月面着陸」
宇橋の方は路線の都合もあって伺う機会がほぼほぼなかったので、そっちに僕らみたいなバンドがいるというのは意外だった。
「そのバンドがね、多分渡瀬クン達がやってるバンドと似ているというか……本当にそんな感じよ」
「そうなんですね……」
「ただ、ライブがすごく過激で。それはもう、すっごいの」
「……あまり具体的には言えない感じのタイプですか?」
「そうね。けど、ちょうど渡瀬クン達のやりたいこととかと近いし、もしかしたらそのバンドが色んなところでライブしていて、その残滓を喰らわされてる可能性もあるわ」
「なるほど……」
これは誤算だ。僕はこのバンドと出会ったことはないが、きっと向かい風になる。しかし、このバンドのせいだと決めつけるのも早計だ。僕らはまだ実績も信頼もない。
「……色々考えてみたんですけど、何かバンドのせいって考えるより、まずはオーナーさんの企画にたくさん出てライブして機会を掴まえた方がよさそうな気がしてきました」
「そうね!私、渡瀬クンたちのバンド結構好きよ。だから呼んじゃう」
「ありがとうございます。ちょうどこないだ学校でもライブをしていて、そっちが次やるのが2週間後なんでその間にやりたいんですけど」
「そうなの!そしたら8日後の企画が学生さん達の企画なんだけど、出れない子が出てきたから代打を探してるのよね」
「本当ですか!ぜひ僕たちにやらせてください」
***
「そういう訳で、次もまたGO-HATTでライブすることになった」
「そうなんだ……」
「手当り次第やるよりは、1度やったところから裾を拡げた方がいいという結論に辿り着いたからね。しばらくあそこにお世話になると思う」
「ノルマとかは言われてます?」
「1人3枚でバックが発生するかな。ちょうどこないだの定例に来てた子達に声掛けをしてみたら上手く捌けると思う。まあ、残っても僕が自腹出すからあんまり気にしないでいいよ」
「分かった……曲はやる?」
「曲……まあ、曲だね。定例の時の内容をベースに、曲順と繋ぎを変える感じで行こう」
とりあえず、活動の方向性がひとまず固まったので、ここから地道に外の企画や定例を重ねて綿秡の音楽シーンで頭角を露わにして行きたい。暫くは吉祥寺のGO-HATTにお世話になると思うので、改めて紹介をしてくれた赤塚さんにお礼をしなくちゃいけないね。
私立彁楽高校二年 渡瀬慎也