【パイロット版】カガコーHIGH SCHOOL ROCK現象【第17話】

2026年07月14日 00:00

 今日は渡瀬ん所のバンドが吉祥寺でやるって言うから、来てみた。ブッキングライブっつー奴で、今日は吉祥寺の『ゴムタイナム』ってバンドが企画したライブに渡瀬たちが呼ばれてるみてーで。ジャンル関係なくブッキングする、ジャンル交流会みたいな企画らしく、4バンドともどうやらやる音楽が違うらしい。

「おや、志島さんと赤塚さん」
「おう。頑張れよ」
「当たり前さ。来てくれてありがとう」

 私の隣で、わたちゃんは何も言い出せずにいた。……おーい。ここ、教えてくれたのわたちゃんでしょ。……ダメだ、固まっちゃってる。まあいいや、渡瀬以外の奴は……あ、いた。

「おい〜、私が来てんのに挨拶もなしか?」
「あっ……志島さん。来たんだ」
「渡瀬にチケットもらったからな。お前は捌けたか?」
「何とか……目当てのバンドがいるの?」
「いや、お前らに決まってんだろ。他のバンドのこと何も知らねえからさ」
「えっ、そ、そうなんだ……」
「緊張すんなよ〜!……あれ、そういや仁川は?」
「仁川くんは楽屋で基礎練してると思う……っていうか、赤塚さんと来たんだね」
「あ、星野ちゃんもいるよ。あの子今お手洗い借りてる」

 土曜日に同級生のライブ見に来るって、普通じゃやらねーことだからちょっと新鮮に感じる。……ドリンクチケットって、いつ使えばいいんだろ。まあいいや。

「出番は?」
「3番目。トリ前……かな」
「お〜〜……ヘマすんなよ」
「し、しないよ……」

 そういう訳で、レッツ見物。周りは別の学生服や私服、背広の中年に着飾った鞄の小せえ女。中くらいの位置で構えて眺めておこう。



***



『いくぜ吉祥寺ー!俺たち3人で!演奏はマヤカシ!』

 マヤカシってバンドは……まぁ、こういう感じのバンドっているよなっていう連中だった。いわゆるメロコア。最前は腕を挙げたり、曲を覚えてて一緒にサビを歌っていたりしてたが、蚊帳の外にいる私達はどういう心構えでそれを見ればいいのか分からなかった。曲は悪くなかった。ギターソロがやたら上手かった。ドラムはバイテンで腕を交互に動かしていた。

『新宿から来ました、スパッツァーズです』

 スパッツァーズ。こっちはまぁ、ガレージっぽくてよかった。ボーカルがフライングVで上擦った声をしてたから、多分ART-SCHOOLが好きなのかもしれない。コードのリフとかでキャッチーに聴かせるって、だいぶ使い古された手段だけど、こういうのって久々に聴くから刺さるんだろうなあとか思った。……正直、ARTでよくねえか?というのは否めない部分があるが、勝手にARTのコピバンから始まって間もないんだろうと思うことにする。


***



「どう?楽しんでる?」
「まあ、今のところは……」
「退屈じゃないならよかったと言いたいのだけれど……」
「……逆かも」
「OK、最前においで」

 相変わらず渡瀬は調子のいい奴。まー、目当てというか……知ってるバンドが一人もいない。あんまり、楽しみ切れてない部分がある。知らなくても楽しめるっていうことってあんのかな?遠巻きに見てたけど、何か……パッとしない。何でだろう、俯瞰しすぎてる自分がいる。渡瀬は最前で見ろって言うから……せめて、最前で見て何か変わるのかは確かめたい。

「わたちゃん、どう?」
「えっ?……あ、楽しいよ〜!」
「楽しいんだ。……そっか、良かった」
「どないしたん?」
「いや、何かさ……私、あんまりパッとしなくって……」
「あら!なんで〜」
「……知らないから、ノリ方が分からんって言うか……正直に言うと、目当て以外のバンドってどう見ればいいか分かんなくって、ぼーっと見たまま終わっちゃって」
「そうなの〜!かなちゃんも難儀なトコあるんやねえ」
「まあ……私の悪い所だけど」
「でもねえ、演者さんってお客さんのこと楽しませようとして、そこにおるやろ?」
「……うん」
「ほんでかなちゃんは、ずっと見とったんでしょ?」
「それも、そう……」
「演者ってな、無視したアカンねん」
「無視?」

 無視、と言われて具体的にどういうことか分からなかったけど、わたちゃんが言うには──

「無視ってな、フロアにおっても、ステージを見ようとせんでスマホとかいじったりな、見ようともせんことやねん」
「かなちゃんの事ね、ウチ隣で見とったけど分かってたで、足動いてたし、テンポに合わせて頷いとったし」
「そういう些細なんでもな、演者さんって嬉しいんよ」
「かなちゃんが思えんくても、実際はちゃんと身体に音楽が乗ってくれてるんやで」

 ……なるほど。

「そういう事か。……ありがと、わたちゃん」
「ななな、ドリンク交換せん?」
「えっ、めっちゃ急じゃん」
「こういう転換のときにな、引き換えてもらうんよ!ここの桃ジュースがすっごい美味しくて、かなちゃんも飲んで飲んで」
「お、おお……」

 なんだかよく分からないまま、あれよあれよとチケットを引き換えて……プラコップ一杯の桃ジュースを貰った。……スムージーっぽい。

「オーナーが山梨ん人やってん、よくもろてくるんやと」
「おー、そうか……たしかに山梨が生産量でアタマ張ってるもんな」
「何よ〜、その言い方」

 なんて会話をしてると、いきなり絶望的に歪んだギターの音が飛び込んできた。うるっさっ!!!!!

「ギターです、これともう1個あって、もう1個はマフを踏んだ音です」

 は?じゃあさっきのは普通にアンプと歪み1個でこれってこと?中音デカすぎだろ。何考えてるんだ?そこに外音の信号も加わってハコ全体が轟きそうな空気になる。……待てよ、あいつマイクになにか繋いでる?

「すみません、あとは手元で出音の歪み具合とかいじるんでこれで行きます」

 みたいな会話がハッキリ聴こえる裏で、榎本はチューニングをしてた。こんなでけえのに気にしてねえの?……慣れたんだろうな。……仁川の奴も、2人の準備が終わったのを皮切りに、皮モノから叩き出す。……うわっ、キック踏む度に胸に来る。何これ。音がでかい。……いや、さっきの人たちもでかかったんだけど、そんなん比じゃない。……何しでかすつもりなんだ?



***



「私立彁楽高校からやって来ました、サンハンキカンズです」

掻き回し(1分程。ステージ上で三角の中心を結ぶように向かい合ってひたすらに楽器を掻き鳴らす)

(微かに渡瀬のカウントのコールが聞こえる。4の後にギターを振り、振り下ろしたのを合図に仁川がシンバルをチョーク。一瞬、全ての音が止まる。)

(そこからギターが綴るようにE7(♯9)を中心に動くカッティングリフ。後を追うようにベースが5度を兼ねてフレーズを弾く。引き算された8ビートが切り込んでくる)

「ゴムタイナムさん、本日は呼んでくださりありがとうございます」
「本日ここにいる皆さんに衝撃を与えて帰ります」

Suspicious(Eマイナーキー。ギターリフを中心に、ルーパー的な展開をしながら歪んだギターが重なっていく。フレーズの構築で忙しなく足元を踏みまくる渡瀬の姿が印象的、かつ榎本康介は身体を大振りにテンポを合わせている。流れるようにビートのテンションも挙がっていき、最高潮に達したあと、渡瀬がマイクに向かって絶叫する。そうしてまた、幾度とない掻き回しと、Eの激重チャグが入り、開放弦を最後は叩きつけるように掻きむしって、終わる。ここまでで6分。最後はドラムがずっと気狂いのように叩きながら、その前で渡瀬が変則チューニングの為に音色を変えていた。)

(照明の暗転とともに無音が数秒)

(渡瀬がFADGCEでリフを載せ始める)

(ルーパーで回し、チューニングを変更)

(この間ドラムが加わり6/4と7/4を行き来する8ビートを刻む)

(FADGCE→DADGAD)

(コード進行を組み立て、これをルーパーに載せる)

(ベースが加わる)

(渡瀬が後ろにギターを背負い、ブームで曲げられたマイクスタンドを手にして靴を見ながら呟くように歌う)

「♪息を潜める 揺らぎを感じ 流れるままに 溶け込んでゆく───」

(渡瀬によるこの歌声もルーパーで回す)

(唐突にビッグマフを踏む)

(ハイポジションのアルペジオを被せる)

(跪いてギターを無理やり鳴らす)

Foam(渡瀬慎也の解釈でポスト・グランジを奏でるバラード。変則チューニングだが、Dキーで456を行き来するコード進行と歌詞の通り溶け込む歌声が呆然とした観客の心に染み渡って行く……のを狙っている。が、足元のアナログディレイを最後は弄り、それまでルーパーで重ねていたフレーズごとアナログディレイで発振させ、渡瀬はギターを置いて退場。残された2人は曲を保つようにビートとフレーズを刻んでいたが、それを皮切りに榎本から仕掛け、仁川が掻き回し、最後は開放弦を鳴らした後にアンプのボリュームを絞ってスタンドバイを戻し、榎本が退場。残された残響と轟音を、仁川がドラムから降りて袖へ捌けるついでに、アンプの電源を消すことで止め、そのまま退場。ここまで8分。計15分の持ち時間で2曲をやり、彼らのライブが終了した。)



***



 ……何これ。何これ……なんなんだ???これ。何か、凄いものを見せられていた気がする。……目の前で、人が殺されたのに、逃げれず突っ立ってるような。そんな感覚のまま、同級生のこいつらの様子を立ち尽くして見ていた。

「…………すげ……」

 いや、実は定例ライブでもこいつらがやってたのは知ってたんだけど。実はその時、次が出番だったからちゃんと見れていなかった。その時の卓は、広報部で放送やってる友達に代打をしてもらってた。それで、すっげえ爆音鳴らしてたって話を聴いて、私もちょっと音漏れを聴いてたから何となくは雰囲気を知れてた……つもりだった。……しかし、これは何だ?インプロ?セッション?その、どれともつかないというか。つかないのに何で違和感なく合わせられるんだっていう部分は……何だろう、榎本も渡瀬も理論かじっててそこの共通言語で合わせてるんだろうなみたいな。

「……わたちゃん、どう──」
「………………」

 渡瀬の奴を目で追ってる。口元に手を添えて、何か綺麗なものを見るように。……こりゃしばらく戻らないな。……つか、星野ちゃんどこ行った?……ああ、いた。

「ほーしのちゃんっ」
「志島先輩〜」
「あれ、どう?」
「……うーん……すごい〜、って感じです〜」
「やっぱりー?」
「はい〜」
「だよね、すごかったよね」

 とにかく、すごいものを見たという感覚をひとつまみほどでも共有できてよかった。

「あ……ドリンク交換してもらうの忘れてました」
「ちょうどいいや、私も喉乾いたし自分の金でもらうわ……一緒にカウンター行こ〜」

 星野ちゃんとドリンクをもらいに行って、そのままわたちゃんと星野ちゃんと、横並びで最後のゴムタイナムってバンドを見ることにした。このバンドは一回り歳が上のバンドなんだけど、ファンがいるのか転換中に人がぞくぞく集まってきた。その流れで私たちは真ん中くらいの列でバンドを見ることにした。



***



「それでは始めましょう、ミュージック・スタート!」

 バンド名も曲名も名乗らずに始まったそれは、ファンキーなナンバーだった。何か、気立ての良さそうな男がマイクを手持ちで踊ってて、キーボードがクラビの音をワコワコ鳴らしながらリフを弾いている。……若干セッションっぽい?歌もスキャット。……セッションだ…………セッションだ!ちょっと待った、このフレーズ……チキンじゃねえか!!!!!うっっっま!!!!!……やっぱ、歴の差というか、年の差というか、大人にしか出せない引き出しって各日にあると思う。その後も、いわゆる定番のセッション曲を繰り返して、メンバー各々がソロ回しでかっこいい所を魅せようとして、それがちゃんとかっこよくて歓声をもらってる。そんなバンドだった。……このバンドのライブのために集まったファンの顔のそれぞれが何となく見えたんだけど、普通にバンドのファンかと思ったら、恐らくバンドメンバーの友達が家族かの面々なんじゃねえかなと思えてきた。……しかし、こんなバンドが何故私らの高校の軽音部のバンドを見つけたんだ?純粋に気になってきた。もしかして、私が知らないだけでサンハンキカンズってもう知られ始めてるのか……?



***



「……ゴムタイナムさん上手かったねえ」
「うわ、いつから隣にいたんだよお前」
「星野さんが空けてくれたから、失礼させていただいたよ」
「あっそ……つか渡瀬」
「ん?」
「お前、あのバンドにどうやって声掛けしてもらった?」
「ああ……えーと、オーナーさんが僕らを勧めてくれたみたい。こないだね、定例ライブの時の映像を共有したんだ。それを見せてくれたらしく、向こうも僕らを気に入ってのことさ」
「へえ〜……」

 なるほど……。何だかんだ上手くリーチはされてんだな。……しかし、それ以外にもこいつって本当に物怖じとかしない。相手が目上でも躊躇しないし。そういうのがライブ活動において必要なのか?よく分からないけど……。

「何でさ、そう気軽に話し掛けれるんだ?そういうもんなの?」
「叔父の受け売りだよ。……とはいえ、僕は自分の力でライブに出たいから、叔父のコネクションは一切使わないんだけどね」
「叔父さんもバンドマンなの?」
「むかーしね。今は音響機器の会社に勤めてる」
「へえ……」
「僕の足元のビッグマフだって、叔父さんから譲ってもらったんだ」
「そうなの!?わざわざ吉祥寺のハードオフで買ったかと思ったけど」
「意外とね、違うんだよね」

 ……叔父からの受け売りって言ってるが、身内に手慣れてる人がいるって言うのはかなり大きいものだと思う。私なんて、家族は私ほど音楽に興味があるわけないから、ライブの出方についてよく分かってない。

「……なあ」
「なんだい、志島さん」
「私んトコもさ、音源制作が中心だけど……いずれメンツが揃ったらライブしたいからさ」
「いいじゃん!やりなよ」
「時間あったらさ、何かそういう……ライブに出る流れとか……教えてくんね?」
「ライブに出る流れ……ほう」
「あるじゃん、ライブ見に行って人と仲良くなるのが〜とか、オーディションに出る〜とか……ああいうののコツというか」
「ああ、そういう話ね。分かった。また明日、学校で教えるよそれは」
「……ありがと」

 私も今、星野ちゃんと一緒に曲を作ってるんだけど……もし2ピースでステージに出る手立てがあったり、メンバーが集まれそうなら、ライブに出たいと思ったりしてる。だって、あいつ、ステージの上で楽しそうだったし。私もやりたくなってしまった。本当はもっと色んなことを聞きたかったんだけど……その前に渡瀬がライブハウスの人に呼ばれたから、私はさっさと帰る。

「星野ちゃん、帰ろ」
「は〜い」
「わたちゃんはどうする?」
「あ、うちは……ええよ、先に二人で帰り〜」
「分かった、気をつけなよ〜」

 わたちゃんは多分、渡瀬たちと帰るつもりだ。それなら、私は私で星野ちゃんを学校まで帰して、それから帰ろうかな。……寮の消灯時間とかよく分かんないけど、今20時だし大丈夫だよな。今日は何だかんだ楽しかった。初めてこういうライブを見たんだけど、こうして気軽に見れる感じなら、今後もちょくちょく色んなライブを見に行こうと思う。目当てがいるとかは特にないから……あいつらがまた出ることになったら、それを見に行く感じでしばらく好きなバンド探しでもしようかな。

私立彁楽高校二年 志島奏

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